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◆牧野 澄夫 先生 |
諸行無常
武田泰淳という作家がいました。氏の『滅亡について』(岩波文庫)に“諸行無常について”という講演が入っています。
諸行無常というと、私たちがまず思いつくのは「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり」という文句ではありませんか。すべてはむなしいものだ、というなげきの声が聞こえてきますね。
しかし、それはことの半面でしかないと武田氏は言います。諸行無常とは、この世に常なるもの、永続するものなどは皆無であり、一切は変化の中にあるということ。とするなら、善いことも永続きしないかわりに、悪いことも永続きしない、それが諸行無常。
今日本経済は、右を見ても左を見ても不景気風が吹きすさび、世間を覆う閉塞感は、この先どこまでいっても消えないだろうと思えるようです。現代は、何をやってもムダだ、すべてはむなしいものだという、前途に希望がもてない時代といえそうです。特に若いひとたちにとって。
いまこそ、前述の諸行無常を考えるときでしょう。諸行無常だからこそ、バブルの好景気は永続きしなかった。同じく、諸行無常だからこそ、今の不況も永続するものではない。善いことも永続きしないかわりに、悪いことも永続きしない。そして、なによりも、人間はいつでも変わることができるのです。まさに、この世は諸行無常なのですから。
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